接骨院内に整体院を作りたいのですが

接骨院内で柔道整復術以外の施術、たとえば整体やカイロプラクティックなどをすることに関して、質問をいただきました。ということで、今日はこれについて。

いただいたご質問の全文

はじめまして、●●といいます。兵庫県で整骨院を開業してもうすぐ2年になります。

今回、前の職場の先輩から加藤先生の著書を紹介してもらい拝見させて頂きました。私もちょうど自費治療に切り替えたいと考えていたところでしたのですごく参考になりました。

自宅の一階を治療院にしているのですが、なかなか改装というわけにもいかず・・・一人でしているのでどうにか整骨院内で整体院を兼業できないものか・・・

そして、さっそく先生の著書に書いてあるように保健所にいき、相談にいきました。ですが職員さんが新人さんだったのでマニュアル通りの回答しか得られませんでした。

周りの整骨院ではほぼ整体行為のようなことを入り口をわけずにしています。著書の中でも法律なんて気にしない先生はいいのですがと書かれていましたが、やはりグレーなままではしんどいです。

保健所の新人さんの話では整骨院の中で柔道整復業以外をすることはあり得ないという回答で、入り口を
分けて、整骨院エリアと完全に分けることと指導されました。最悪の場合は裏の壁に穴をあけて別の入り口を設置するしかないです。

先生の著書のなかで「実際に私のクライアントが相談に行って断られた件でも、私が代理人として交渉した結果、認めてもらえたことが数件あります。」とありましたがどのように交渉しているのか教えて頂けないでしょうか。

 

実際に交渉した事例

ご質問ありがとうございます。

んー、難しいですよね。確かにマニュアル通りに進められると「ダメなものはダメ」で終わってしまう話です。こうなったらもう一歩も前に進めません。なので、どこまでお力になれるかわかりませんが、過去に僕が交渉した事例を少しご紹介します。

まず、もっとも確率が高いのは、質問者の先生が書かれているように、入口を二つ用意して整体院を別の施術院とすることです。もちろんこれでもダメだという保健所の担当者もいますが、基本的にはそれで認めてもらうことができます。

ただ、今回の質問者の先生のようにそれができない状況が普通かもしれません。なかなか入口を複数用意することはできませんから。そこで、これまでに交渉して通った事例を挙げると

  • 整体院の入り口は窓にします。と言い切った
  • 入口は一つだけれどもそれ以外が重ならないと主張した
  • 他の自治体での事例を伝えた
  • 法律と患者さんを守ろうと思っていることを訴える

こういった交渉をしました。けっこう強引なのも含まれていますね。

 

入口は窓にします。と言い切った

これはかなり強引なケース。

ご存じのように接骨院の開設は法律できっちり定められています。だからこちらに関しては適当にすませる保健所は少ないです。でも整体院は、いってみれば法律の外。開業届けを税務署に出す必要はあっても、開設届けを保健所に提出する義務も制度もありません。

そうなると途端に「関わりたくない」という意思表示を示す保健所の職員さんもいらっしゃいます。

最初は杓子定規に、「同一建物であれば整体をやってもダメだし、整体院を別に作ることも認めない」というスタンスだったのが、解決策を相談しているウチに「じゃあ窓が入口ということにしてもいいですか?」となり、「好きにしてください」といった流れになったことはあります。

とりあえず接骨院のほうは要件整えます。あとは勝手にやってくれ。というのが本音だったのかもしれません。ま、特殊な例といえば特殊かもしれません。

 

入口以外が重ならないと主張した

これがもっとも多い事例かもしれません。

多くの接骨院は入口を二つ用意できません。でも入口は一つなんだけど、重なっているのはそこだけですということをしっかり説明すると、けっこう認めてくれます。

たとえば、入り口を入って右へいけば接骨院、左にいけば整体院というように完全に分かれるようにする。この分け方としては、パーテーションで区切るだけでもOKという保健所の担当者もいれば、完全に壁にしないとダメという人もいます。

また、整体院のほうに鍵を掛けられるようにして、自由に行き来できないようにすればOKという担当者の方もいました。

質問された先生の場合は一軒家なので、1階を接骨院、2階を整体院にしますと説明すれば認めてくれる可能性は高いかもしれせん。そういった形にして説明している院は多いです。

ただ、結局はそれで通すだけ通して、1階で整体施術されている先生がほとんどなんで、そこまで言及すると厳密にいうとアウトにはなりますが・・・ まぁ、ここは個々の判断です。

 

他の自治体での事例を伝えた

これもそこそこ利くことがあります。いろいろ交渉して、なかなか認めてくれなかった場合、「●●市の保健所では認めてくれていると聞いたのですが」と他の自治体の事例を出すとOKがもらえる場合があります。

ただしこれは、僕の場合は実際にいくつかの保健所とやりとりをして、実例を持っていたのでできたことかもしれません。担当者によっては、細かくどこの自治体のどんなケースかを聞いてきたり、実際にそこに問い合わせたりする方もおられます。

これまでの印象としては、いろいろと交渉して、保健所の担当者の方が返答に困っているところでこの話を出すと効果的かなと感じました。

 

法律と患者さんを守ろうとしていることを訴える

これはすべての場面で訴えてほしいことです。以前僕の運営する別のブログでこんな記事を書きました。
⇒ 接骨院の違法広告から見る業界の今後

この記事の冒頭で紹介している健康保険組合の調査において、千代田区内の接骨院55院中54院が違法広告をしていたと報告されています。これだけを取りあげて全国の接骨院がすべて違法行為をしているとは言いませんが、実際の現場においては、法律を完璧に守っている接骨院ばかりではありません。

もちろん保健所の担当者もそういった事実があることは、普通はわかっています。(今回ご質問いただいた先生のケースは新人さんということなので、例外かもしれませんが…)

その前提に立った上で

他の接骨院は黙って違法行為に近いことをしている。でもウチはしたくないからこうやってなんとか法律に触れないように対策を講じたいと思っている。

ということを訴えることです。そしてそれプラス、患者さんのためであること、そしてそのためにできる対策はキチンとやることを訴えるといいです。

保健所として嫌なのは、一般の方からこんな苦情がきたときです。

保険の利く接骨院だと思って行ったのに、整体をされて、しかも保険外なので法外な値段を請求された!

こういったことが増えると、その対策をする必要があります、なによりちゃんと指導しとんのか! という責任を問われてしまいます。これは避けたい問題なんですね。だから頭ごなしにマニュアル通りの指導だけをする人が多い。

だから事前に、患者さんにはちゃんとした説明をすることを約束するのです。なんだったら先に資料を作ってそれを持っていってもいい。

接骨院と整体院は別であること。保険が利かないから自費で〇〇〇〇円掛かるということ。こういったことを事前に患者さんに説明する。整体院にも掲示しておく。

これらを約束して、問題が起こらないことを示すのです。保健所の担当者の方も人間ですので、ちゃんと誠意を持って説明すればわかってくれる方はいます。ダメな場合はダメですが…

以上が僕がこれまでに全国の保健所と交渉してきた事例です。たいした交渉はしておりませんが、交渉次第でなんとかなったことはいくつかあります。参考になれば嬉しいです。

 

長めの追伸:法律解釈の違い

今回の記事は、法律に関することを書いています。質問された先生は法律違反にならないように、なんとかその要件を満たしたいと考えておられます。

んで、この法律ってのは本当に厄介です。なぜならそこに解釈の違いが生まれるからです。めちゃくちゃ簡単にいうと、憲法9条なんてのがその格好の例です。自衛隊はまさしく解釈の違いから存在できているといっていいでしょう。

実はこの接骨院内で整体などの民間療法を行うことも、解釈次第でどうとでもなります。

以前にこのブログ内のこの記事「整骨院で整体など民間療法を自由診療として行う」のコメント欄で以下のような意見をいただきました。「療術師」様からご意見を承り、それに対して僕(加藤)が答えています

 

  • 違法ではありません。柔道整復師が整骨院内の施術に療術を導入する場合、療術専門の別の施術室を設ける必要も保健所に開設届を出す必要もありません。民間療法というよりプロは療術という名称を使いますよ。
    よく調べてくださいね。

    • コメントありがとうございます。

      違法ではないという根拠を示す、法令などがあるのでしょうか?
      たとえば、接骨院内でいかなる手技療法を業として行ってもよいというような法令や通達などが。
      もしあるなら教えていただけると助かります。

      柔整師が行う施術はすべて柔道整復という考え方もありますが、これはあくまでも性善説に基づいていると僕は考えています。ようは、規定したようなこと以外はしないはず。だから柔整師が行うのはすべて柔道整復塾、よってごちゃごちゃと他の施術を行う際の決め事などいらない。という考え方です。

      あはきも柔道整復師法も基本的にポジティブリストの形を取っています。
      この問題もまさしくそうで、そもそも民間療法は定義がありません。

      例外的に施術者が一人の場合は、あはきの施術を同部屋で行ってもよいとされていますが、その他の整体などの施術を単独で業として行うことを認めている法令などは見たことがありません。

  • 詳しく知りたい方は医事法規をよく勉強すればわかりますよ。柔道整復師は保険適用である急性亜急性外傷の後療法に危険性のないものであれば指圧をはじめ様々な療術を自由に用いてもよいことになっています。現在は大多数の整骨院は後療法が主体であり後療法に電料・罨法以外の様々な療術(手技・物療)を導入していますから、施術できない、と言ったら営業が成り立たなくなりますし、後療法のたびに別の療術施術室で、と言ったら整骨院の施術室の意味がなくなります。こんなおかしな話はありません。おそらく各県の柔道整復師や療術の医事法規に関してに認識不足のお方がそのような指導をしているのだと思います。

    • 引き続き、ご指摘ありがとうございます。

      通常の接骨院での施術で、必要とされる手技を使うこと自体は、保健所も厚労省も規制しようとしていません。そんなのを規制すれば、おっしゃるとおり施術そのものができなくなります。これは誰もが理解していることであり、そこを議題にしていません。当たりまえすぎるので、記事中では言及しておりませんでした。

      問題は、それを根拠に拡大解釈して「なんでもできる」としてしまうことです。

      つまり最初から柔道整復術以外の手技療法を業として行うというケースが多くあって、どうみても癒しのマッサージをやっているだけなのに柔道整復ということにして、どうみても慢性症状なのに亜急性という医学的にあり得ない単語まで作って(外傷の亜急性期しかない)ここまで来ました。
      そこはやはり法で規制すべきという考えが今の一般的な考えになっています。

      こうなるともはや整骨院ではなくなってしまうので、常識的に考えてやはり整骨院内では難しいと僕は考えています。

 

 

柔道整復師が行う施術はすべて柔道整復だという考えが根底にあります。そこは僕が上記のコメントで書いているとおりです。なので療術師様がおっしゃることは間違いではありません。

でもこれを拡大解釈して

なにをやったっていい。整体だろうがカイロプラクティックだろうがマッサージもどきだろうが、接骨院内でなにやっても法的に問題ないんだ。

という解釈をしているのはめちゃくちゃ問題があります。実際この手の話は厚労省の審議会などでも発言に出てきます。だから常識的に考えて僕のように

確かに柔整師が施術するうえで、必要であればマッサージなど他の手技療法を行うことは可能。でもだからといって、他の手技療法単独のメニューを作ってそれを業として行うことまでを認めているわけではない。

という解釈をするのがまともかなと思います。法律の解釈なのでどちらが正解、不正解なんてのはありません。個別の事案については最終的には裁判などで判断するしかありませんから。

また、この記事にはこんなご意見もコメント欄にいただいています。

  • メルマガ記事から来ました。

    柔道整復師が民間療法を云々とありますが、法規上は柔道整復師が行う施術は全て柔道整復術です。
    極端な話、トンカチで頭シバいて寝違いを治しても、それは「柔道整復術」なわけです。

    なので整骨院内で行う柔道整復師の施術は柔道整復術以外有り得なく、逆にいえば、「カイロやってます」とか「整体やってます」と言うこと自体が違法になります。自ら「整骨院内で柔道整復術で施術していません」と宣言していることになりますから。

    厳密にいえば、身分法で定められている「柔道整復師は柔道整復術をつかう人」という定義にあてはめれば、整骨院以外の場所(ここでの議論の場合は整体院)での施術も柔道整復術なので、整体術(空間を示す言葉ではなく行為を示すため術をつけました)を施術した、カイロを施術した、とはなり得ません。どこで施術しようとも、法規上それは柔道整復術なわけですから。

    柔道整復術しか使ってはいけない(使えない)柔道整復師は、柔道整復術の施術によって業を成すことが許されている整骨院以外の空間では業を成してはいけないのです。

    つまり、「整体院」という継続的に業をなす空間において、柔道整復師は柔道整復術を使ってはいけない、つまり、柔道整復師は整体院をつくって施術することは違法なのです。

    ただし、継続的に業をなす空間以外、まぁ例えば飲み屋のねーちゃんに首治したるわーワシのカイロテクニックでな!ボキっ!ってやって飲み代まけてもらうのは問題ありません。

    ややこしいけど超厳密いえば、「整体院やるなら柔道整復師免許返さなあきまへん」ていうことですわ。

    まぁ現実、加藤さんも体験された通り、自治体の担当はそんなこと知りまへん。
    厚労省の役人もよっぽど暇な人しか知らんでしょ。
    年単位で担当が異動しますからね(笑)

    あとちなみに柔道整復師が治療できるのは急性または亜急性の外傷だけやありまへん。それはたただの療養費受領要件なだけです。

    加藤さんご指摘のようにポジティブブリストなので「国民の健康に資する限りにおいてやってはいけない行為は投薬とオペ」のみでおます。

    実際は「医師の領分を侵さない限り」と付けた方がええんやろけどね。

    医者がヘルニヤと診断したもんを、柔整師が「ヘルニヤを治療します」言うたらアカンからね。「医者はヘルニヤ言うけど、ワテらはアンタの腰痛を治してるだけなんやで、ヘルニヤを治してるんちゃうねんで」て言わなあかんからね(笑)

 

そういえばかつて小泉元首相が、自衛隊のイラク派遣の際の非戦闘地域の定義を、「自衛隊の活動している地域が非戦闘地域だ」と答弁していました。まさしくこれと同じ。

そもそも整体に明確な定義がありません。だからどこまでが柔道整復術で、どこからが整体なのかなんて定義もありません。となると、全部柔道整復術なんですよといえばそれで通る話なんですね。

と、このように法律ってこねくり回そうと思えばいくらでも解釈が生まれます。それこそ裁判やって最後まで戦う気合いがあるなら、そうすればいいんでしょうが、普通はしません。

ということで、実際はこの記事の前半で書いたように保健所の担当者とじっくり話し合うことが大切かなと僕は考えています。

整骨院・接骨院集客経営コンサルタント、加藤

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